免疫力を上げる交流術
「ほめて育てる」が主流の現代。 いかに叱らずほめて本人のやる気を出していくかが 近年、企業や子育てフィールドで注目されてきました。
でも、教育には「叱る」ことも大切! 叱られることで「成長」が早く促され 逆境にも強い心を持つことが出来る、 という反論も多々。
どちらの立場の主張も納得いく節はありますが 今日お話しする研究を見てみると、 考え深いものがあります。
<言葉が体温に影響する?>
テキサス大学医学部と ヒューストン大学ソーシャルワーク科の共同研究です。
プラスの言葉がけが体の表面温度を上げる ことが分かりました。(※1)
この実験では、 17~35歳、白人系、黒人系アメリカ人を対象に 30人の面接を行いました。
15人被験者(女性8名、男性7名)グループと 15人コントロールグループ(女性9名、男性6名)に分けられ 学校のこと、趣味のこと、服の趣味など同じ質問をします。
そして最初のグループには プラスの言葉を、
2つ目のグループには とくに興味のない反応で 面接が進められました。
どの被験者もリラックスして 実験に参加できるように 綿密に場面設定をしていました。
15分間、面接前のリラックス時間を設けたり 部屋の温度を一定に(25度)したり、 部屋は明るくし、 手のついた椅子を用意しました。
結果は歴然でした。 コントロールグループ(反応をあげないグループ)は わずか平均0,1℃上昇したのに対しプラスの言葉かけをしたグループは 1.1℃も表面温度が上がるという結果。
体温が下がれば、血流が悪くなり、 栄養も運ばれず、脳の働きも低下します。
免疫も落ち、自律神経のバランスも崩れ、 感情もアンバランスになります。 (自律神経は感情と深い関係があります。)
新陳代謝が悪くなり 老化も進みます。
一説によると 体温が1℃下がると免疫力が37%落ちる、 という話があります(※2)
体内の酵素の働きも半分に落ち ガンのリスクも高くなります。 (ガンは低体温が好き)
免疫力が低下すると最近やウィルスから 体を守れなくなり、病気の素床を作ってしまいます。
プラスの言葉かけは 心も体も温めてくれる 心身ともに健康にする 妙薬と言えるかもしれません。
だからといって プラスばかりのストロークは考え物です。
例えば、 心のこもっていない
「まがいもの」のプラスの言葉は
逆に不信感を持たれ、状況を悪くします。
大切なのは「心のこもった」言葉かけや接し方
<感情と体温の関係>
この実験で興味を引いたのは男女の差でした。 女性の被験者は8人中7人。 コントロールグループでは7人中3人の体温が上昇。
男性の被験者よりも 女性の被験者の多くが体温上昇をみられました。
この結果に対して、研究グループは 女性は男性よりも感情的に反応したためかもしれない、 と推論していました。
皮膚の温度が感情と対応していることは 過去の実験で明らかになってきています。
不安、恐れ、葛藤があると 表面温度は低くなる傾向があり
心地よさ、リラックス、安心感は血流をあげ、 表面温度が上がります。
女性には特にプラスの言葉かけが 大切なのかもしれません。
プラスの関係が 心と体にどれだけ大きな影響を与えるか 研究した実験は過去にも実証されてきました。 (Spitz,R.,1945, Harlow, H.,1958)
成長が遅れたり、心身に不調が現れたり、 仲間との関係が築けなかったり。
どんな美味しい食事よりも、プラスの言葉が 心と体の健康を左右するようです。
<大切なのはバランス>
けれども、プラスの世界だけで生きていては 小さな批評や失敗にたいしての耐性が低くなり
ともすれば 立ち直るのに時間がかかることもあります。
かといって叱られてばかりだと 他人や大人の目を気にして 褒められることだけをする「いい子」になってしまいます。
叱られることで注目を得ようとたり 他人に依存的な生き方になってしまうなど。
「かわいい子は、 五つ教えて三つ褒め、 二つしかってよき人とせよ」というのは 江戸時代の思想家、二宮尊徳の有名な言葉。
大切なのはその「バランス」です。
<誉めるコツ・叱るコツ>
誉めるにも叱るにもちょっとしたコツが必要です。 心理学的な観点からまとめてみました。
誉めるコツ
・本心で誉める
・具体的に誉める
・何度も誉めない
・喜びを分かち合う(共に歩む)
叱るコツ
・短く、ポイントをはずさない
・自分の価値観を押し付けない
・人格そのものを否定しない
・叱ると怒るは違うことを理解しておく (主体は相手。感情的にならない。)
・他人と比較しない
<大切な根っこの部分>
人を育てることは 植物を育てるのと似ています。
いい土壌(愛情とゆるぎない信頼関係)があり、 そこで暖かい太陽と水 (プラスの言葉や態度)を受けながら
たまに台風や災害 (意味ある「叱られ」体験)を経験して はじめて「自律した心」が育っていく。
まずはいい土壌づくりをすること。 そこでしっかりとした根っこを作り =心の通じた信頼関係
そして ちょうどいい水と太陽 (バランスのいい+と-の心の栄養) (水は多すぎても少なすぎても植物の命を奪う) 人を信頼する力が人間力に繋がります。
土の状態はどうか? 水は足りているか? 栄養はどうか?
誉めるか、叱るか、の前に この根っこの部分を育てることが大切です。
この根っこの部分=基本的信頼がないと どんなに誉めてもうまく育ちません。
逆にこの根っこがしっかりしていると 叱りすぎても大丈夫。 自分の力で起き上がって来れます。
自分の根っこはどうだろう? 子どもたち、パートオナー、友人の根っこはどうだろう? この機会に一度立ち止まって見てみましょう。 明日からの人間関係が変わってくるかも知れません。
<ワークショップのお知らせ>
※横浜でも「ママのための勉強会」を開きます。12月7日(金)10:00~11:00 http://vine-art.com/archives/1674
※次回、武蔵野市での「ママのための勉強会」は11月22日(木)10:00~11:30 http://vine-art.com/archives/1554
※次回の脳と心の勉強会「脳HOW」は12月27日(木)10:30~12:00 「子どもでもわかるやさしい自律神経のはなし」です。 http://vine-art.com/archives/1548
※1 Pinsker, J. E. & Russell, L. H. (1978). The Effect of Positive Verbal Strokes on Fingertip Skin Temperature: Objective Measurement of Interpersonal Interaction. Transactional Analysis Journal, 8:4, 306-309.
※2 Mittelman, B. & Wolff, H.G. Affective states and skin temperature: Experimental study of subjects with "cold hands" and Raynauds Syndrome. Psychosomatic Medicine, 1939, 1, 271-292.
※3 「体温を上げると健康になる」(2009)斉藤真嗣著 サンマーク出版